文化庁によるWebサイト『メディア芸術カレントコンテンツ』にて、2021年11月より始まった東京都現代美術館 個展「ユージーン・スタジオ 新しい海:After the rainbow」に関する記事が掲載されています。
( 掲載記事より一部抜粋 )
真の共生とは何か、想像してみる
「ユージーン・スタジオ 新しい海 EUGENE STUDIO After the rainbow」展レポート
ライター
森川 もなみ
山梨県立美術館学芸員。1984年東京都生まれ。日本大学大学院芸術学研究科造形芸術専攻博士後期課程退学。おもな企画に「文化庁メディア芸術祭 富士の国やまなし展」(2013年)、「美し、やまなし、パワー! 山梨の女性アーティストたち」(2016年)など。専門は西洋美術史、美術における東西交流。地域や媒体を横断するマージナルな芸術や文化に関心を持つ。
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ただそこに存在することの重み
“展覧会は〈ホワイトペインティング〉シリーズから始まる。真っ白なカンヴァスには何も描かれていないが、この画面上には実はこれまで世界のさまざまな都市の人々がキスをしてきた。思わず制作年を確認すると2017年という数字が記載されている。本シリーズは以前開催された個展「THE EUGENE Studio 1/2 Century Later.」(2017年11月21日(火)〜12月24日(日)、資生堂ギャラリー、註1)においても展示されていたが、その当時と新型コロナウイルス感染拡大という状況を経た現在とでは、本作を前にしたときの鑑賞者の気持ちはかなり異なるものになっているだろう。マスクが日常化し、人や物との接触を避けることが是とされる今、見ず知らずの人たちのキスが重なり合ってできた本作は、久しく忘れていた「コロナ前」の感覚を思い起こさせる。本作が「礼拝建築」と評され「最小の建築でもある」ことから(註2)、同じコーナーにロシア正教のイコンの板絵《カザンの聖母》が展示されているが、今や〈ホワイトペインティング〉シリーズの存在自体が危ういバランスの上になりたっていた尊い日常のなかで結実した奇跡のようにも感じられる。"
強制のない共生を想像してみる
“本展を通して感じたのは、多様な世界をあるがままに丸ごと受けとめようという思いである。ユージーン・スタジオの作品は声高ではない。糾弾したり教化しようとしたりせず、考えの異なる他者をも肯定し、ひたすら多様なものが存在するという事実を提示し、真の共生とは何かを想像することを促す(註7)。押し付けがましく言い切らない、そこにこそアートならではの可能性があることを気づかせてくれる。作品を振り返ると、ユージーン・スタジオの作品には「中心」が定まっていないものが多いことにも気づく。中心と周縁のない、柔軟な見方が共生する世界。まだ見ぬそんな世界を想像するための時間をもたらしてくれる展覧会だ。"
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