寒川裕人(ユージーン・スタジオ)のインタビューが「黒の研究所」に掲載されています。
寒川裕人(ユージーン・スタジオ)のインタビューが、『黒』について文学、史学、哲学、天文学、物理学、地球科学といった専門家のインタビューを通して研究する「黒の研究所」に掲載されています。
以下本文より引用
記事タイトル:黒はただ、そこに在る|寒川裕人 INTERVIEW
インタビュアー:黒の研究所編集部
“この世界には、「目に見えるもの」と「目には見えないもの」とがある。それぞれを物体としてイメージすると、両者は確かに別物なのかもしれないが、たとえば光と闇であればどうだろう。朝陽と闇、影と日向。両者にはつながりがあり、揺らぎ、溶け合い、重なりの気配を私たちに実感させる。おそらくたった今、この瞬間も、私たちを含むすべては、何かと隣り合って存在していることを想像させる。
現代美術家・寒川裕人は、絵画や彫刻、インスタレーションなど多様な表現を通じて、私たちが世界を「感じる」行為を問い直す表現者だ。2021-2022年、東京都現代美術館にて開催された大規模個展「ユージーン・スタジオ 新しい海 EUGENE STUDIO After the rainbow」では、空間に漂う静寂や、丁寧に積み重ねられた構成に深い印象を受けた。まるで自然のなかに身を置いたときのように、自分の内側に流れる時間にそっと意識が向いていくような感覚を得たことを記憶している。主題(作品)はもとより、空間や、鑑賞者の体験まで丁寧に設計しながら、寒川は、緻密さと豊かさに満ちた表現を続けている。この美術館での個展を観た、ASEAN地域に縁のあるコレクターたちによって建設が進められているのが、バリの世界遺産の麓に広がる約1ヘクタールの敷地に誕生する寒川裕人の常設美術館だ。そこでも、さまざまな「黒」の表現が展開される予定だという。
『黒の研究所』が寒川裕人という現代美術家に惹かれる理由は、彼が「黒」を通して、影や色彩、知覚の周辺に起こる揺らぎ、そこに生まれる奥行きに触れるような表現を生み出しているところにある。言葉で語るにはあまりに繊細で複雑な、存在と世界との接触面に、静かに光を当てているようにも見える。本インタビューでは、寒川の作品やその背景にある思想にも注目をしながら、彼が思う「黒」とはなにかをたどってみたい。その眼差しを通して私たちは「黒」を、世界をどのようにとらえ得るのだろうか。
寒川
私が直接話した中で印象深いエピソードといえば——たとえば、あるイスラム圏のご出身の方々が「制作者ですら誰ひとり実物をみたことがない手で作られたものは、世界でここにしかないのではないか」と話してくれたことをよく覚えています。たしかに正倉院の宝物ですら、職人はその完成形を見ていますよね。この像は、制作者である私自身ですら、その姿を「見た」ことがないのです。美術館で展示された像は財団に収蔵されているのですが、もちろんその方々も、像を見ることはできません。移動をさせるときでも、像は完全に覆い隠すようにお願いしています。




