想像 #1 man
2021、彫刻
“このひとの像は、最初からすべてを、完全な暗闇のなかでつくりあげた。
私も、誰も、一度もみたことがない。今後も永遠にそうしようと思う。”
“幾人かに聞いてみると、例えばそれは仏像的なものという人もいたし、あるいは粘土の像、もしくは大理石、冷たい石――それから大きい像、小さい像――ひとによって、想像する像が異なるようだ。これは、その人が過ごしてきた人生にもよるのだと思う。”
“もし〈想像〉が、100年後の誰かの頭の中でも広がったとすれば、この像の数は、無限に近しいのかもしれない。”
“像は、この奥の真っ暗な部屋に実在する。”
闇黒の空間にひとの彫像が置かれている。鑑賞者が暗闇でいかに目を凝らしても、その実体をみることはできない。(予約制でひとりずつ、完全な暗闇の部屋に入り触れることもできる。)
この彫像は完全な暗闇のなかで、作家と彫像家によって約3ヶ月の期間にわたって制作された。作家自身も一度も彫像をみることなく完成させ、陳列に携わる者達も誰一人として実体をみることなく展示している。サイズや素材等の情報も公開されておらず、タイトルの「man」も性別を表すものではなく、ただひとの像であることのみが知らされている。私たちは確かに存在するが、決してみることができないこの彫像に対峙する時、自らの想像を拠り所にするほか手立てがない。本作品が存在し続ける限り、みる者の数だけ《想像》の姿が増殖し続けていく。
『EUGENE STUDIO After the rainbow 新しい海』配布ハンドアウト(東京都現代美術館)より
“…同作品の体感後、人間にのみ与えられた想像力の強さに思い至るのではないだろうか。人間は、ラスコー洞窟壁画や縄文土偶のような根源的祈りに端を発し、偶像崇拝を禁じてもなお「嘆きの壁」に聖なるものを感じたり、米国の画家バーネット・ニューマン(1905~1970年)が色面に描いた数本の色の帯に崇高(Sublime)を見いだしたりしてきたのである。…”
by 宮津大輔
暗闇で触る「永遠に見られない」彫像も ユージーン・スタジオ展
"…「阪神地区で暮らしていた幼少期に阪神大震災とその復興を見て、大学生のときに3.11を経験しました。特に3.11は、(放射能といった)見えない物質の存在のリアリティに気づき、それと同時にSNSが広まり、見えない人やコミュニティを人々は無意識に想像していったと思います。そしてコロナも含めて、それぞれの問題が顕在化していくことを感じていました。この十数年難しい状況を通して、僕が、僕たちが得られるものがあったとすれば? 見えない力としてそれらを傍観するのではなく、なにか転換できることがあるとすれば? と考え続けて見えてきたのが、『想像する力』でした。…"
by Casa BRUTUS 真っ白い絵画、見えない彫刻。ユージーン・スタジオが提示する「想像する力」とは?
「…震災を通して、正解がわからなくてもやり続ける、ある種の“徒労”の果てに見えるなにかがあることを、僕たちは知っているはず。続けることで見えてくる地平があると思って、制作を続けています」
by Pen
アーティスト・寒川裕人インタビュー|徒労の果てに、想像を超える表現が生まれる【創造の挑戦者たち#62】